黒部峡谷下ノ廊下(一日目:黒部ダム~阿曽原)

2017.10.28(土) 日帰り

チェックポイント

DAY 1
合計時間
7 時間 34
休憩時間
33
距離
19.9 km
のぼり / くだり
3243 / 3852 m
3 33
50
1 26
14
18
17

活動詳細

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※二日目(阿曽原~欅平):https://yamap.co.jp/activity/1299997 ・日本有数の秘境、黒部峡谷。そして、黒部ダムより下流域の心臓部・『下ノ廊下』には、今を遡ることおよそ100年前、電力開発のために拓かれた道が存在する。V字谷の断崖絶壁に穿たれた登山道は、道幅が最狭部で50~60cmほどで、谷底まで数百メートル落ち込んでいる箇所も多く、歩行にはそれなりの危険を伴う。さらに例年、雪解けが遅いこともあって、一般の登山者が足を踏み入れることが出来るのは毎年、9月~10月のごくわずかな時期に限られる。しかしながら、険しい渓谷が織りなす絶景は非常に魅力的で、私にとっても憧れの場所であった。 下ノ廊下は今年で二度目となるが、初挑戦となる昨年は体力的に精一杯で、その景観を十分に楽しむことは出来ず悔しい思いをした。今年は体力の向上に努めた上で、改めてチャレンジ。登山者だけに許された至高の紅葉狩りを、じっくり楽しむことを目的に出発した。   ・『下ノ廊下』の登山コースは、ともに富山県有数の観光名所である、『黒部峡谷鉄道』の終点・『欅平駅』から、黒部川の上流側に位置する『黒部ダム』へ伸びている。今回は黒部ダム側から出発し、途中『阿曽原温泉小屋』に宿泊、翌日、欅平へ抜けるという計画だ。 なお、このコースは大きく分けて、上流側の『日電歩道』および、写真の項に記す『仙人谷ダム』を境として、下流側の『水平歩道』に分かれている。一日目の行程は、主に上流側の『日電歩道』を進むこととなる。   ・本来は10/22~23を予定していたが、台風の接近に伴いキャンセル。10/28~29に延期した。心配なのは紅葉のタイミングであり、立山黒部アルペンルートの公式サイトによると、扇沢(立山黒部アルペンルートの長野県側の入り口)や黒部湖周辺ではすでに色褪せ始めているとのことであった。しかしながら、登山道はスタートしてすぐに黒部ダム堤体の真下、すなわち黒部湖より標高にして180mほど下がることになり、そこから歩を進めるごとに、真っ盛りの紅葉が一面に広がっていた。 昨年は一週間ほど早い時期に訪れたが、それよりも良好なタイミングであったかもしれない。 ・今回、里山以外の山行では初めてPRO TREK Smart を使用し、YAMAPのアプリにてログを記録した。本機は電池の持ちの悪さがたびたび指摘されており、筆者も以前里山でYAMAPのアプリを使用した際には、1時間で充電量の20%弱の消費が見られたため、これは本格的な山行には厳しいのではないかという認識を持っていた。が、此度の山行では7時間半ほどの使用でも充電量にはまだ40%強の残量があった。また、『みちびき』対応の恩恵からか、急峻な黒部峡谷の崖下においても自己位置の測定が可能であり(ただし高度の方は、グラフをご覧いただければお分かりいただける通り、当てにならないが)、本格的な山行においても心強いツールである可能性が示唆された。勿論、条件によりけりという可能性もあるため、今後の山行においても引き続き同機を使用し、検証を行っていく事が必要である。     <注意事項> ・落石・滑落の危険がつきまとうコースであるため、ヘルメットの着用を推奨。   ・冬季における雪崩の多発地帯でもあり、上述の通り雪解けも遅いため、コースの条件は毎年変化している。登山計画を立てる際には、必ず阿曽原温泉小屋のウェブサイトで、登山道の状況を確認すること。なお、今回は雪渓が残っている箇所があり、念のため軽アイゼンを持参したが、阿曽原温泉小屋の方々がしっかり整備してくださっていたおかげで不要に終わった。   ・かなりのロングコースであるため、日没時刻を意識する事(この登山道に限った話ではないが、日没後に歩くのは文字通りの自殺行為)。特に入山当日にトロリーバスで黒部ダムに入る際は、始発の便の時刻によって登山計画を制約されることに注意。   ・必須ではないが、事前に小説『高熱隧道』(著:吉村昭)を読んでおくことをお勧めしたい。単純に峡谷の景観を楽しむのもいいが、この険しい自然を切り開いた人々の営みに思いを馳せながら歩くと、より一層楽しめることは請け合いだ。

鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 まずは、『立山黒部アルペンルート』の入り口である『扇沢』から『関電トンネルトロリーバス』で黒部ダムへ向かう。トロリーバスとは、電車のようにパンタグラフを介して架線から電力の供給を受けて走る電気バスで、我が国の法律上は鉄道の一種に分類される、電車の仲間だ。現在のわが国では、この『関電トンネルトロリーバス』を含む、『立山黒部アルペンルート』内の二路線のみで運行されている。しかし来年には本路線も電気自動車方式のバスに転換されるそうで、少し寂しい思いだ。
まずは、『立山黒部アルペンルート』の入り口である『扇沢』から『関電トンネルトロリーバス』で黒部ダムへ向かう。トロリーバスとは、電車のようにパンタグラフを介して架線から電力の供給を受けて走る電気バスで、我が国の法律上は鉄道の一種に分類される、電車の仲間だ。現在のわが国では、この『関電トンネルトロリーバス』を含む、『立山黒部アルペンルート』内の二路線のみで運行されている。しかし来年には本路線も電気自動車方式のバスに転換されるそうで、少し寂しい思いだ。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 黒部ダム駅に着いたら、登山者用の出入り口へ。出口の広場で支度を整え、いざ出発。
ここから途中の『仙人谷ダム』までが、『日電歩道』の区間となる。
黒部ダム駅に着いたら、登山者用の出入り口へ。出口の広場で支度を整え、いざ出発。 ここから途中の『仙人谷ダム』までが、『日電歩道』の区間となる。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 九十九折りの坂道を下ると、目の前には黒部ダムの堤体がそびえ立つ。
写真では、というか、実際にその場で目にしても186mというその堤体の高さは実感しづらいが、これは周囲の自然環境のスケールが桁外れであるため、距離感が狂ってしまいがちなため。
九十九折りの坂道を下ると、目の前には黒部ダムの堤体がそびえ立つ。 写真では、というか、実際にその場で目にしても186mというその堤体の高さは実感しづらいが、これは周囲の自然環境のスケールが桁外れであるため、距離感が狂ってしまいがちなため。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 『日電歩道』とは、その名の通り、かつて戦前に存在した『日本電力』が大正14年から昭和4年にかけて電力開発のために拓いた登山道だ。
戦後発足した関西電力への移管を経て、黒部ダムの建設においても重要な役割を果たしている。
『日電歩道』とは、その名の通り、かつて戦前に存在した『日本電力』が大正14年から昭和4年にかけて電力開発のために拓いた登山道だ。 戦後発足した関西電力への移管を経て、黒部ダムの建設においても重要な役割を果たしている。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 なお中部山岳国立公園内である現地において黒部ダムを建造するにあたって、当時の厚生省より、この歩道を毎年整備することが義務づけられたため、関西電力は毎年社費を投じて当路の維持を行っている。
なお中部山岳国立公園内である現地において黒部ダムを建造するにあたって、当時の厚生省より、この歩道を毎年整備することが義務づけられたため、関西電力は毎年社費を投じて当路の維持を行っている。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 岸壁に穿たれた道は次第に高度感を増すが、恐怖心よりもむしろ、周囲の圧倒的な絶景に心を奪われていく。
岸壁に穿たれた道は次第に高度感を増すが、恐怖心よりもむしろ、周囲の圧倒的な絶景に心を奪われていく。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 今年は途中の『黒部別山谷』に巨大な雪渓が残っていた。梯子とロープをつたって突破する。
今年は途中の『黒部別山谷』に巨大な雪渓が残っていた。梯子とロープをつたって突破する。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 峡谷を往く。
峡谷を往く。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 日電歩道最大の景勝地である『十字峡』。黒部川本流に、両脇から流れ込む川が綺麗な十字を形作っている。
日電歩道最大の景勝地である『十字峡』。黒部川本流に、両脇から流れ込む川が綺麗な十字を形作っている。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 滝行を味わなければならない箇所もあるので注意。衣服が濡れるとその後の行程に支障をきたすため、手前でレインウェアを装着してからの突破を推奨。筆者はそのままくぐった結果、翌日も乾かないままびしょびしょのフリースを羽織って歩く羽目になりました。
滝行を味わなければならない箇所もあるので注意。衣服が濡れるとその後の行程に支障をきたすため、手前でレインウェアを装着してからの突破を推奨。筆者はそのままくぐった結果、翌日も乾かないままびしょびしょのフリースを羽織って歩く羽目になりました。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 『作郎谷』に架かる吊り橋。結構揺れるため、筆者は楽しみながら通過できたが、慣れない方は注意。
『作郎谷』に架かる吊り橋。結構揺れるため、筆者は楽しみながら通過できたが、慣れない方は注意。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 写真やや上方に見える、2つの灰色の人工物は、『黒部川第四発電所』の送電口。上流の黒部ダムから取水された水で発電している。発電所の本体は岩盤の内側に建設されており、よくもまあこんな所に造ったものだなあ、と驚かされる。
写真やや上方に見える、2つの灰色の人工物は、『黒部川第四発電所』の送電口。上流の黒部ダムから取水された水で発電している。発電所の本体は岩盤の内側に建設されており、よくもまあこんな所に造ったものだなあ、と驚かされる。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 上述の『黒部川第四発電所』の建設に際して設置された、トラムウェイ(資材搬送用ロープウェー)の遺構。ちょうどこのあたりには広場があり、休憩に適する。
上述の『黒部川第四発電所』の建設に際して設置された、トラムウェイ(資材搬送用ロープウェー)の遺構。ちょうどこのあたりには広場があり、休憩に適する。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 『日電歩道』の終点、『仙人谷ダム』。
『下ノ廊下』の歴史を語るうえで、黒部ダムと並んで欠かすことのできない存在だ。
『日電歩道』の終点、『仙人谷ダム』。 『下ノ廊下』の歴史を語るうえで、黒部ダムと並んで欠かすことのできない存在だ。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 『仙人谷ダム』は、我が国が二度目の世界大戦へ巻き込まれる危機が現実のものとなりつつあった昭和11年、軍需物資製造に必要な電力需要のために建造が開始された。
しかし、険しい黒部峡谷へのダム建造にあたっては、資材搬入用のトンネルが必要不可欠であった。
『仙人谷ダム』は、我が国が二度目の世界大戦へ巻き込まれる危機が現実のものとなりつつあった昭和11年、軍需物資製造に必要な電力需要のために建造が開始された。 しかし、険しい黒部峡谷へのダム建造にあたっては、資材搬入用のトンネルが必要不可欠であった。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 そこで、ダムに先立って掘削されたのが、こちらのトンネル、『高熱隧道』である。
しかしその先に待ち受けていたのものは、最大で摂氏166℃にもなる高熱の岩盤と、想像を絶する黒部峡谷の自然の猛威だった。熱中症や発破用のダイナマイトの自然発火、さらには冬季における、『ホウ』と呼ばれるすさまじい雪崩による作業員宿舎の倒壊などにより、実に300名を超える殉職者を出すに至ったのである。
そこで、ダムに先立って掘削されたのが、こちらのトンネル、『高熱隧道』である。 しかしその先に待ち受けていたのものは、最大で摂氏166℃にもなる高熱の岩盤と、想像を絶する黒部峡谷の自然の猛威だった。熱中症や発破用のダイナマイトの自然発火、さらには冬季における、『ホウ』と呼ばれるすさまじい雪崩による作業員宿舎の倒壊などにより、実に300名を超える殉職者を出すに至ったのである。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 しかし、技術者や作業員たちの執念によりトンネルは開通。そして建造開始から4年後となる昭和15年、『仙人谷ダム』にて取水した水を利用する『黒部川第三発電所』は完成を見た。並行する水路トンネルの影響により温度は下がったとはいえ、現在もトンネル内はかなりの高温を保っているそうだ。
しかし、技術者や作業員たちの執念によりトンネルは開通。そして建造開始から4年後となる昭和15年、『仙人谷ダム』にて取水した水を利用する『黒部川第三発電所』は完成を見た。並行する水路トンネルの影響により温度は下がったとはいえ、現在もトンネル内はかなりの高温を保っているそうだ。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 予定より『仙人谷ダム』に早く着いたので、少しのんびりしていると、上述の『高熱隧道』を通って、関西電力の専用列車がやってきた。
写真は、蓄電池式機関車『BB型』。
予定より『仙人谷ダム』に早く着いたので、少しのんびりしていると、上述の『高熱隧道』を通って、関西電力の専用列車がやってきた。 写真は、蓄電池式機関車『BB型』。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 仙人谷ダム付近の、関西電力の『人見平宿舎』。登山道は、ここから後半の『水平歩道』となる。
仙人谷ダム付近の、関西電力の『人見平宿舎』。登山道は、ここから後半の『水平歩道』となる。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 ここまで、高低差の少なかった登山道は、ここにきて突然、急な登り道となる。
本日の行程もラストスパートだけに、この登りは肉体的にも精神的にも、大変な試練となる。
ここまで、高低差の少なかった登山道は、ここにきて突然、急な登り道となる。 本日の行程もラストスパートだけに、この登りは肉体的にも精神的にも、大変な試練となる。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 しかる後にようやく、『下ノ廊下』唯一の山小屋にして、本日の寝床である『阿曽原温泉小屋』に到着!!ここからさらに5分ほど下った場所に、先述の『高熱隧道』より引湯した露天風呂がある。この山行で最大の楽しみだ。
しかる後にようやく、『下ノ廊下』唯一の山小屋にして、本日の寝床である『阿曽原温泉小屋』に到着!!ここからさらに5分ほど下った場所に、先述の『高熱隧道』より引湯した露天風呂がある。この山行で最大の楽しみだ。
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 阿曽原温泉小屋名物、カレー。おかわり自由で、過去には7杯食べた猛者もいたそうな。筆者は一杯半頂きました。
阿曽原温泉小屋名物、カレー。おかわり自由で、過去には7杯食べた猛者もいたそうな。筆者は一杯半頂きました。

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