道志山塊 赤鞍ヶ岳 縦走記

2018.06.03(日) 日帰り

チェックポイント

DAY 1
合計時間
7 時間 37
休憩時間
17
距離
28.2 km
のぼり / くだり
2543 / 2522 m
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活動詳細

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 この冬は道志山塊によく通った。登山的におもしろい山があるわけじゃないのだが、トレイルランニング的には魅力的なルートがいくつもある。そのひとつが朝日山から赤鞍ヶ岳、厳道峠へとつながる尾根だ。中央本線と道志みちの間を東西に走っていて、これまで周囲の山から眺めるたびに、「ああ、いい尾根だなあ」とうっとりしてきた。ちょっとしたフェティシズムである(笑)。  若い頃はご多分にもれず、北アルプスや南アルプスの高峰にばかり目が向いていたし、ピークハントにしか興味がなかった。でも、中年になるにつれて、だんだん低山と低山を結ぶ尾根のラインに目が向き始めた。気分のいい尾根を、トレイルランニングやファストパッキングの手法を活かして、できるだけ長くつなぐ。そういう山行がおもしろくなってきたのだ。客観的に見ると、だいぶ枯れた趣味ではあるけれど、個人的にはこれがおもしろくて仕方ない。  今回めざした赤鞍ヶ岳ルートは、じつは1月に一度チャレンジして敗退している。積雪が深くてラッセルに苦しみ、朝日山を前にしてエスケープしたのだ。今回はそのリベンジ。梁川駅から南に進み、二十六夜山、棚ノ入山を乗り越え、朝日山、赤鞍ヶ岳に登頂。そこから目的の尾根を東にひた走り、藤野やまなみ温泉に下山するというプランだ。    *  6月3日、快晴の日曜日、中央本線に揺られて梁川駅をめざす。問題は故障あけの体の状態だ。4月にトレイルランニングで転んで膝を痛めた。それがよくなってきたと思ったら、今度は自転車で落車して腰と尻を打撲。踏んだり蹴ったりである。今回はゆっくりでいいから着実に動き続け、痛みを出さない状態でゴール。やまなみ温泉でしっかり湯治をするというのが目標だ……と自分に言い聞かせているそばから、梁川駅の階段でつまづき、転びかける。やれやれ。先が思いやられる。  まずは寺下峠をめざしてロード、登山道をこつこつ歩いて登っていく。最初は臀部に鈍い痛みがあったが、次第に気にならなくなる。寺下峠から尾崎への下山は、トレイルランニングモードに切り替えてみる。地面が柔らかいおかげか、膝の感覚は悪くない。一山越えて少し自信を取り戻す。  次は二十六夜山だ。江戸時代は「十五夜」だけでなく、陰暦の1月と7月の26日に月待ちをする風習があったそうで、きっとこの山でもやっていたのだろう。じつは都留市側にも、もうひとつ別の二十六夜山がある。この二つの山を7月26日につなぐという遊びもやってみたいのだが、とりあえず今日は棚ノ入山へ向かう。冬の雪中行軍のときに音を上げた急登は、雪がなくてもやっぱりきつい。それでも、こつこつ歩いていれば着かない山頂はない──そう呟きながら標高を稼いでいく。  棚ノ入山を乗り越えたあとは鞍部をつなぎ、いよいよ朝日山(1299m)に取りかかる。頂上直下の急登でバテるが、何とか体を押し上げる。道志みち側から登れば、あっという間なのだが、中央本線側から来ると、ここまでのアプローチが長い。それでも、スタートから3時間半弱で来られたことで、ちょっと安心する。ここからは下り基調。仮に痛みが出てペースダウンしても、粘って進めば日没までにゴールできそうだ。  朝日山山頂は眺望がないので、昼飯を食べる場所を探しながら、もう少し先へと進んでいく。ウバガ岩のあたりに、視界が開けた気持ちのいいテラスがあった。そこに座り、丹沢側の加入道山、大室山を眺めながら、握り飯を平らげる。  夢にまで見た(?)尾根は、イメージどおり気分のいいシングルトラックだった。周囲の山から見たときはけっこう痩せ尾根なのかなと思っていたが、意外に道幅があり、安心して走れる。暑い日だったので、樹林が陽射しを遮ってくれるのもありがたい。赤鞍ヶ岳、長尾山、御牧戸山と細かいアップダウンを繰り返しながら、軽快に進む。ただ、あまり人が通らないせいか、灌木が生い茂り、藪漕ぎのようになる場面も何度かあった。結果的に、この日は寺下峠で女性ハイカーにひとり会ったのみ。この尾根は完全に独り占めだった。それだけ人気がないルートなのかと思うと、ちょっと寂しくもあるけれど(苦笑)。  厳道峠にいちど下りたあと、さらに綱子峠へとつながる尾根を進んでいく。そして、今日最後のピーク、峰山へと登る。そもそも持久力が落ちているところへ来て、暑さも重なり、だいぶヘロヘロになる。登りきったところで、ちびちび節約してきた水を一気に飲み干す。あとはゴールのやまなみ温泉へ下るだけだ。ところが、急斜面のザレ場が乾ききって滑りやすく、何度かスリップダウンする。これ以上、怪我をするわけにはいかないので、慎重に下る。やまなみ温泉到着は16時半。思ったよりも早かった。  終盤はさすがに膝に違和感が出たが、痛みまではいかず、何とか走り続けることができた。筋力や心肺能力がだいぶ落ちているのを実感したが、とりあえずイメージしていたラインを踏破できたのは、ちょっとした収穫だ。    *  沢木耕太郎さんの『深夜特急』の中に、こんな一節がある。バス旅にこだわる沢木さんが、インドの旅行案内所で係員と話をするのだが、なかなか意図を理解してもらえないという場面だ。  係員はさらに不機嫌そうな表情になり、それなら鉄道で行け、ここから出ている、と言った。 「バスで行きたいんだ」  私が言うと、係員はいくらかむきになったようだった。 「どうしてだ」 「どうしても、だ」 「なぜバスなんかで行かなければならないんだ。鉄道の方がベターだ、カンファタブルだ、ラピッドだ、セーフティーだ!」  彼の言うのはいちいちもっともだった。頷きながら聞いたあとで、 「でも、バスで行きたいんだ」  と私がそう主張すると、さすがにむこうもサジを投げたらしく、どうにでも好きなようにしてくれというような顔をした。  この「バス」を「トレイル」に置き換えると、そのまま僕の気分になる。中央本線でいえば梁川から藤野まではたったの3駅。鉄道のほうが快適で速く安全だ。でも、どうしてもトレイルで行きたいのだ。登山的にとくに意味があるルートじゃない。ましてや登山をしない人にとっては意味不明の行為だろう。それでも、やらずにはいられない。ある種のオブセッション、妄念のようなものかもしれない。そういうルートがいまも頭の中に何本かうごめいている。はてさて、次はどこへ行こうか……。 ◆30.18km/D+2307m/7時間35分59秒 行動食/水1.2L(クエン酸+粉飴)、おにぎり2個、カロリーメイト2本、ナッツ

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