皿倉幻想霧中伝

「山頂に着いたとき、想像していたような、炯々たる八幡の街の灯など何処にもなかった。 濃密な霧が山頂を丸呑みにしていた。唯一、点在する僅かな電灯の明かりだけが吐き出されている。 それによって恋人の聖地とされる建造物はいまや仰々しい光線を放ち、異星からの漂着物のようだ。 聳える鉄塔の上の二つの赤いラムプは、怪獣の眼の如くこちらを睨めつけている。 非現実感がわれわれを襲った。 そもそもここは本当に山頂なのだろうか。 もしや国見岩から山頂までの間に、─例えばワーム・ホールの出現などの─空想科学的な現象に巻き込まれたのではないか。 この恐ろしくも美しい光景が現実であることを願い、YAMAPの行動記録と共に写真を残すことにする。」 登山部山猿手記より抜粋 ※もちろん手記はフィクションです。