魔物の棲む谷 - 釜谷 (かまたん) -

2017.09.23(土) 日帰り

チェックポイント

DAY 1
合計時間
11 時間 33
休憩時間
5 時間 17
距離
6.7 km
のぼり / くだり
706 / 708 m
11 33

活動詳細

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釜谷(かまたん)。魚津市の最高峰、釜谷山(2415m)へ突き上げる秘境の谷である。 釜谷に入ってみたいと思うようになったのは、甌穴(ポットホール)と黒曜石の鉱脈の存在を知ってからである。 甌穴は、谷の名前の由来にもなっており、その存在は昔から知られたものであるが、黒曜石の存在は、数年前に我が山岳会が釜谷遡行中にたまたま発見したものである。 今回は、黒曜石の調査という第一の目的のために、ベテランSさんと二人で入渓した。 だが、釜谷は甘くはなかった。ベテランSさんをあわや呑み込む魔物が棲む谷であった。 正直、本山行記録を公開すべきかどうか迷ったが、一つの失敗事例として今後の教訓にすべき、決して忘れてはいけない山行として、公開することにする。 二人で入渓することによるリスクは考えたのか、遡行経験がある谷だからといって油断していなかったのか、今後の当山岳会の安全対策について改めて問われているのだと思う。 今回の山行では、高巻きの途中、同行者がちょっとした不注意からザックもろともに崖下に転落した。だが、奇跡的に10mほど転落したところで土の平地があり、同行者は行動不能となるような怪我もなくそこで止まった。しかし、ザックははるか下の滝壺まで落下した。そこから、二人で協力してザックを回収し、何とか無事に下山することができた。 幾つもの幸運が重なって無傷で帰って来れたが、一歩間違えば、死亡事故に繋がっていたかもしれない。 どんな山でも、山に向かう時は、常に全身全霊で真摯に山と向き合わなければならない。

毛勝山・釜谷山・猫又山 6時20分に歩き始める。入渓地点までは林道歩き。
6時20分に歩き始める。入渓地点までは林道歩き。
毛勝山・釜谷山・猫又山 だが、猛烈な藪道となっていた。笛を鳴らしながら進む。雨で濡れた植物の葉が身体を濡らしていく。
だが、猛烈な藪道となっていた。笛を鳴らしながら進む。雨で濡れた植物の葉が身体を濡らしていく。
毛勝山・釜谷山・猫又山 45分かかって入渓地点に到着。
45分かかって入渓地点に到着。
毛勝山・釜谷山・猫又山 どんよりとした天気である。
どんよりとした天気である。
毛勝山・釜谷山・猫又山 なかなかの豪快な流れである。間近で見ると美しさよりも恐怖を感じさせる。
なかなかの豪快な流れである。間近で見ると美しさよりも恐怖を感じさせる。
毛勝山・釜谷山・猫又山 巨大な堰堤が現れる。
巨大な堰堤が現れる。
毛勝山・釜谷山・猫又山 右岸の泥付きの斜面を登れば、容易に乗り越せる。
右岸の泥付きの斜面を登れば、容易に乗り越せる。
毛勝山・釜谷山・猫又山 釜谷の入口へはもう少し。
釜谷の入口へはもう少し。
毛勝山・釜谷山・猫又山 轟音とともに岩の上を水が流れていく。
轟音とともに岩の上を水が流れていく。
毛勝山・釜谷山・猫又山 果てしなく清らかな水だ。
果てしなく清らかな水だ。
毛勝山・釜谷山・猫又山 7時32分、釜谷と猫又谷との出合に到着。左に進む。
7時32分、釜谷と猫又谷との出合に到着。左に進む。
毛勝山・釜谷山・猫又山 いよいよ釜谷の遡行が始まる。
いよいよ釜谷の遡行が始まる。
毛勝山・釜谷山・猫又山 しばらくはノーザイルで進めるが、巨岩がゴロゴロしており、容易な道ではない。
しばらくはノーザイルで進めるが、巨岩がゴロゴロしており、容易な道ではない。
毛勝山・釜谷山・猫又山 谷は幾多にも分岐している。水量が最も多い一番右が本流である。
谷は幾多にも分岐している。水量が最も多い一番右が本流である。
毛勝山・釜谷山・猫又山 時折、ザーザーと雨が降ってくる。神様が「これ以上進むな」と警告していたのではないだろうか。
時折、ザーザーと雨が降ってくる。神様が「これ以上進むな」と警告していたのではないだろうか。
毛勝山・釜谷山・猫又山 美しい沢だが、楽しむ余裕はあまりなかった。
美しい沢だが、楽しむ余裕はあまりなかった。
毛勝山・釜谷山・猫又山 うまくルートファインディングしながら、どんどん遡行していった。
うまくルートファインディングしながら、どんどん遡行していった。
毛勝山・釜谷山・猫又山 9時10分、緩やかな沢が終点を迎える。これから連瀑帯となる。
9時10分、緩やかな沢が終点を迎える。これから連瀑帯となる。
毛勝山・釜谷山・猫又山 第一の滝手前でハーネスを装着する。1ピッチで左岸の壁を登り、滝の上部へ到達。それでも40分かかった。
第一の滝手前でハーネスを装着する。1ピッチで左岸の壁を登り、滝の上部へ到達。それでも40分かかった。
毛勝山・釜谷山・猫又山 続く滝は左岸の藪漕ぎで越える。
続く滝は左岸の藪漕ぎで越える。
毛勝山・釜谷山・猫又山 どんどん滝が出現する。
どんどん滝が出現する。
毛勝山・釜谷山・猫又山 そして、釜谷の核心部、爆笑の滝が姿を表す。この上にはさらに落差数十mの巨大な滝が待ち構えている。
そして、釜谷の核心部、爆笑の滝が姿を表す。この上にはさらに落差数十mの巨大な滝が待ち構えている。
毛勝山・釜谷山・猫又山 爆笑の滝を越えるには、左岸のルンゼを詰めて大きく高巻くしかない。だが、この高巻き中に事件は起こったのである。
爆笑の滝を越えるには、左岸のルンゼを詰めて大きく高巻くしかない。だが、この高巻き中に事件は起こったのである。
毛勝山・釜谷山・猫又山 岩と木に挟まれた小さな隙間を通過する箇所があり、先行するSさんがザックを下ろし、身体を先にくぐらせてから、ザックを通過させた。だが、ザックが滑り出し、それを止めようとしたSさん。あっという間もなく、左の崖の下にザックもろともに消えた。その瞬間、「終わった」と思った。しばらくして、下からSさんが叫んだ。「生きてるぞ。怪我もしていない。」とりあえずはホッとした。私は、ザックから慎重に30mロープ1本を取り出し、折り返してダブルにしてSさんのいるところまで懸垂下降した。滑落地点から10mほど下に幅1~2mの土の平地があり、Sさんは奇跡的にそこで止まったのである。だが、そこにザックの姿はなかった。ザックははるか数十m下の滝壺の中で浮いていた。そのザックの中には、もう一本の30mロープ、テント、ツェルトが入っている。Sさんはリスクを背負いながらもザックを回収することを決意。
岩と木に挟まれた小さな隙間を通過する箇所があり、先行するSさんがザックを下ろし、身体を先にくぐらせてから、ザックを通過させた。だが、ザックが滑り出し、それを止めようとしたSさん。あっという間もなく、左の崖の下にザックもろともに消えた。その瞬間、「終わった」と思った。しばらくして、下からSさんが叫んだ。「生きてるぞ。怪我もしていない。」とりあえずはホッとした。私は、ザックから慎重に30mロープ1本を取り出し、折り返してダブルにしてSさんのいるところまで懸垂下降した。滑落地点から10mほど下に幅1~2mの土の平地があり、Sさんは奇跡的にそこで止まったのである。だが、そこにザックの姿はなかった。ザックははるか数十m下の滝壺の中で浮いていた。そのザックの中には、もう一本の30mロープ、テント、ツェルトが入っている。Sさんはリスクを背負いながらもザックを回収することを決意。
毛勝山・釜谷山・猫又山 崖の際に生えていた潅木に30mロープをシングルでかけ、Sさんが懸垂下降で降りていく。正直滝底まで届くが分からない。だが、しばらくすると、SさんからOKを示す長い笛の音。無事にザックの元にたどり着いたようだ。
崖の際に生えていた潅木に30mロープをシングルでかけ、Sさんが懸垂下降で降りていく。正直滝底まで届くが分からない。だが、しばらくすると、SさんからOKを示す長い笛の音。無事にザックの元にたどり着いたようだ。
毛勝山・釜谷山・猫又山 中身をチェックし、いよいよ登り返す。
中身をチェックし、いよいよ登り返す。
毛勝山・釜谷山・猫又山 これは下でSさんが撮った写真。非常に貴重な写真である。釜谷の名前の由来となった”釜”(ポットホール;甌穴)である。長い年月をかけて礫と水流が岩を削ることで形成された巨大な円形の穴である。右上にロープとエイト環が見えるが、ギリギリ届いたということになる。
これは下でSさんが撮った写真。非常に貴重な写真である。釜谷の名前の由来となった”釜”(ポットホール;甌穴)である。長い年月をかけて礫と水流が岩を削ることで形成された巨大な円形の穴である。右上にロープとエイト環が見えるが、ギリギリ届いたということになる。
毛勝山・釜谷山・猫又山 そして、この釜から見上げた写真がこれ。Sさんは浸水し、重みが増したザック(推定20kg)を背負ってこれを登り返さなければならなかったのだ。登りの合図でロープを引っ張るが、Sさんはなかなか上がってこない。左に右に振りながらなんとか藪の中へ入り、潅木を伝いながら、這い上がってきた。30分ほどかかったと推測される。全脚力と全腕力を使い果たし、衰弱していた。
そして、この釜から見上げた写真がこれ。Sさんは浸水し、重みが増したザック(推定20kg)を背負ってこれを登り返さなければならなかったのだ。登りの合図でロープを引っ張るが、Sさんはなかなか上がってこない。左に右に振りながらなんとか藪の中へ入り、潅木を伝いながら、這い上がってきた。30分ほどかかったと推測される。全脚力と全腕力を使い果たし、衰弱していた。
毛勝山・釜谷山・猫又山 しばらく呼吸を落ち着かせてから、下山を開始する。本来ならこの滝の上の平地で1泊し、翌日は標高1900m付近にある黒曜石の鉱脈を調査する予定であった。だが、この事故が起こってしまっては下山しか選択肢はない。登ってきたルンゼへ降りようとする。何とかルンゼに降りられそうな場所を見つけ、懸垂するが、左に振られるわ、空中懸垂になるわ、湿ったロープが絡まるわで非常にテクニカルな懸垂下降となった。30mのダブルロープ1ピッチで無事ルンゼ内に到達。あとは、ザイル不要な斜面を慎重に降りていく。14時前に爆笑の滝下部まで無事降りて来れた。極度の緊張から解放され、目の前が一気に明るくなった。
しばらく呼吸を落ち着かせてから、下山を開始する。本来ならこの滝の上の平地で1泊し、翌日は標高1900m付近にある黒曜石の鉱脈を調査する予定であった。だが、この事故が起こってしまっては下山しか選択肢はない。登ってきたルンゼへ降りようとする。何とかルンゼに降りられそうな場所を見つけ、懸垂するが、左に振られるわ、空中懸垂になるわ、湿ったロープが絡まるわで非常にテクニカルな懸垂下降となった。30mのダブルロープ1ピッチで無事ルンゼ内に到達。あとは、ザイル不要な斜面を慎重に降りていく。14時前に爆笑の滝下部まで無事降りて来れた。極度の緊張から解放され、目の前が一気に明るくなった。
毛勝山・釜谷山・猫又山 爆笑の滝下部まで来れば、もう死の恐怖は感じなかった。
爆笑の滝下部まで来れば、もう死の恐怖は感じなかった。
毛勝山・釜谷山・猫又山 雲の切れ目から太陽も顔を出した。
雲の切れ目から太陽も顔を出した。
毛勝山・釜谷山・猫又山 爆笑の滝を振り返る。先人はなぜこの恐ろしい連瀑を爆笑の滝と名付けたのだろう。
爆笑の滝を振り返る。先人はなぜこの恐ろしい連瀑を爆笑の滝と名付けたのだろう。
毛勝山・釜谷山・猫又山 帰りは慎重に。大きな段差のある部分では、手足をフルに使って降りる。
帰りは慎重に。大きな段差のある部分では、手足をフルに使って降りる。
毛勝山・釜谷山・猫又山 足元を見下ろすとサンショウウオの姿。
足元を見下ろすとサンショウウオの姿。
毛勝山・釜谷山・猫又山 この日少なくとも10匹は目撃した。
この日少なくとも10匹は目撃した。
毛勝山・釜谷山・猫又山 お助けロープ等なしに何とか下っていくことができた。
お助けロープ等なしに何とか下っていくことができた。
毛勝山・釜谷山・猫又山 突然ガスに巻かれ、暗くなる。
突然ガスに巻かれ、暗くなる。
毛勝山・釜谷山・猫又山 この下りも何とか狭いホールドを手掛かり足掛かりにして通過。
この下りも何とか狭いホールドを手掛かり足掛かりにして通過。
毛勝山・釜谷山・猫又山 16時20分、猫又谷との出合まで戻ってきた。
16時20分、猫又谷との出合まで戻ってきた。
毛勝山・釜谷山・猫又山 さあ、あと一息だ。
さあ、あと一息だ。
毛勝山・釜谷山・猫又山 最後のプチ難所。3mほどの大岩からのジャンプ。枝に捕まってターザンの要領で。
最後のプチ難所。3mほどの大岩からのジャンプ。枝に捕まってターザンの要領で。
毛勝山・釜谷山・猫又山 無事に着地。
無事に着地。
毛勝山・釜谷山・猫又山 17時前に入渓地点に到着。あとは林道歩きだけである。
17時前に入渓地点に到着。あとは林道歩きだけである。
毛勝山・釜谷山・猫又山 17時45分、藪道を抜け、ついにゴール。二人で無事に戻って来れた喜びを分かち合った。
17時45分、藪道を抜け、ついにゴール。二人で無事に戻って来れた喜びを分かち合った。

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