観音峰〜稲村ヶ岳 テント泊縦走

2016.03.02(水) 2 DAYS

チェックポイント

DAY 1
合計時間
5 時間 12
休憩時間
53
距離
8.5 km
のぼり / くだり
1152 / 382 m
36
12
24
19
39
2 25
DAY 2
合計時間
4 時間 28
休憩時間
1 時間 29
距離
7.0 km
のぼり / くだり
292 / 943 m
4
3
7
1 5
50

活動詳細

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3月1日 曇り。 阿部野橋から特急電車に乗車すると、 下市口駅までは約1時間の道のり。 列車の窓から見る景色が流れ去っていく。 都会のゴミゴミした景色から少しづつではあるが、遠のいていくのがわかった。 窓から見える景色が田舎に変わり、 暫くして下市口駅で列車は止まった。 バス停にたどり着くと、間も無く洞川温泉行きのバスが、颯爽とロータリーに飛び込んできた。 このバスに乗る登山者は僕一人だ。 と、そこに何やら騒がしく駆け込んでくる明るい三人組の女性。 60代前半くらいの女性だろうか。 服装からすると、登山に行くようだ。 目的地が違うのだという事が解ったのは、バスが出発した約30分後の事だった。 「次は広橋峠」、、「ピンポン♪」、、 「次、止まります」 明るくて上品な声のアナウンスの女性はどんな人なんだろう。 ふと考える。業務的だが、印象は良い。 下車した女性たちは、満面の笑顔でバスを飛び出し、足早に歩き出していった。 そこからさらに30分ほどバスに揺られ、見覚えのある景色が現れると、雪が積もりだした。 そこから10分ほどで、目的の観音峰登山口にたどり着いた。 下車したのは僕、ただ一人だ。 もっとも、先ほどの三人組の女性以外は、誰一人乗車してこなかったのだから、それは当たり前の事なのだが。 昔、白の平キャンプ場に遊びにきた時、 ハイカーが登山ついでのキャンプをしているのを見かけたことがある。 その時は、ゆっくりキャンプをしたほうが楽しいのにと、小さな世界で生きる自分を、今は恥ずかしく思う。 登山口に着くと、まず見えるのはみたらい渓谷に架かる橋。 真っ白く続く長い橋は、僕を誘い、迷い込まそうとしているかのような風貌だ。 僕は迷いもなく手前の休憩所で、身支度を整え、肩からカメラを背負い出発した。 ゆらゆら揺れるその天国へ続くような橋は、僕の気持ちを高ぶらせた。 初めて入る山に、敬意を払いながらシャッターを切る。 一枚一枚慎重に。確実にシャッターを切っていく。 登り始めて間も無く、じんわり出てくる汗に反し、北からの風が頬をひんやりさせる。 身体は暑いが、顔は寒いのだ。 上はロンT一枚だが、厚手のマフラーを巻きつけ、なんとも滑稽な服装の人間を、 笑う人間なんて周りに誰もいない。 聞こえるのは鳥のさえずりと風の音。 とても静かで、空気が澄んでいる。 しばらくすると開けた道に差し掛かった。 見る景色が変わりゆくのが登山の醍醐味だ。 見えたのは、一つ目の目標、観音峰。 不意に現れたその力強い佇まいは、 自分の心を遥かに上回り、思わず唸りをあげてしまう。 展望台から見える観音峰は、とても凛々しく、とても律儀だ。 その律儀さはのちに裏切られるような形になるのだが、 その時点では、一心不乱にカメラを向けた。 シャッターを数枚切り、観音峰を眺める。 しばらくし、お辞儀をひとつ。 そこに見える目標を目指す。 見え魚は、釣りにくいというが、 山もそうである。 なかなか思ったようにはたどり着けないのだ。 程なくして、先に何やら黄色い看板が見える。 観音峰山頂にたどり着いたようだ。 ここで観音峰に裏切られる。 あんなに雄大で、どっしりと構えた山頂の景色は、その道の延長上にあるだけだった。 人工的な黄色の看板が無ければ、ここが山頂だと気づかず、通り過ぎてしまう事だろう。 少しがっかりはしたが、やはり山頂は山頂。 風は少し強まり、静かに肌寒さで山頂を告げていた。 先を急ぐ。 しばらく歩くとトレースが急に道を外れた。 地図によると直進のはず。 何かあるのかと少し不安になる。 とりあえずトレースを信じ、先導者に従うと、 そこには素晴らしい景色が広がる、隠れ展望場が現れた。 景色が見えたのと同時に、そこには荷物を広げ、暖かいコーヒーを飲む男性登山者がいた。 お互いに存在を確認すると、ひとつお辞儀。 「天気良くなりましたね」 「ガスが少し取れてきたので、気持ちが良いです」と男性。 話を少しかわし、やはり道はそのまま尾根をまっすぐ進めば良いと教えてくれた。 トレースのない道をひたすら進み、 法力峠を、目指す事にする。 男性はとても親切に山の事を説明してくれた。 本当に山が好きなんだな、と思い返しながらラッセルし続けた。 トレースが付いていない道は、足の膝上まで雪にはまる、いわゆるツボ足だ。 法力峠まで続く尾根は、歩行を困難にした。 こんな経験は初めてのことだ。 下りこそ楽しく進むことができているが、 上りのことを想像しゾッとする。 新雪をガシガシ進むと、分岐点が見えた。 そこが法力峠という事は、看板が無くともすぐに悟った。 そこには母公堂から、稲村ヶ岳に向かう足跡が、うっすらと続いていた。 ひと山越えた事を実感すると、身体が疲れている事に気づく。 もう少し進み、そこで休憩しようと考えた。 もちろん稲村小屋を目指す。 進む事でいろんな出会いがある。 人こそいないが、動物の足跡だったり、 橋がかかっていたり、不思議な形をした木に出会う。 「これはすごい。」 思わず独り言を発してしまう。 マンモスツリーだ。 目もあり、牙もあり、鼻を高らかと押し上げ、 その鼻先には、しっかりとした木が伸び続けていた。 なぜそのような生き方になるのか見当もつかないが、 何か生き様を感じる。 その悠々たる木の幹に触れ、 そしてまた先を進む。 一度刻まれた足跡は、先日から降ったであろう雪で、少し見えずらくなっていた。 はっきり見えるのは小動物の足跡。 時に、黄色く凍りついた小便のあとがあり、 凍りついた糞が所々に見受けられた。 人間が歩きやすいところは、動物も歩きやすいのだろうか。 いや、先に歩いたのは動物だろうか。 動物が歩いた場所を、人間の方が利用したのだ。 迷惑をしているのは動物の方なのかもしれない。 法力峠から歩く事、約一時間半、思わぬ難関に差し当たった。 道にかかる橋のその先には、動物の足跡さえ有りはするが、 垂直斜面そのもの。 下を見ると崖になっており、落ちると怪我は免れないだろう。 左手を山にし、右側が崖。 その道は10メートル足らずの距離ではあるが、恐怖からか遠く感じる。 意を決してアイゼンを登山靴に縛りつけ、ピッケルを左手に、橋を渡った。 橋の先の斜面に差し掛かると、一瞬足が止まる。 まずはピッケルを斜面に打ち付け固定。 左足を雪に蹴り込み固定。 右足をその先に蹴り込み固定。 30センチメートルずつ慎重に、一歩一歩確実に足場を作っていく。 繰り返し繰り返し、約20分。 とうとう斜面の先にたどり着いたようだ。 振り返り、自分が歩いた道を実感した。 同じような場所をさらに2箇所ほど越え、 やっと見えたのは稲村小屋だった。 ほぼ計画通りの16時前にたどり着いた。 その頃には、雲ひとつない青空がそこには広がっていた。 寝床となる場所を探し、天幕を設営。 少し冷えていた事もあり、持ってきた梅酒を温めすする。 至福の瞬間だ。 少し落ち着いたところで、外に出てみると、 先ほどの景色と打って変わり、 山全体が桜色に輝いていた。 樹氷は夕日によって、白色から桜色へと姿を変え、 言葉にできないほどの景観が広がり、 太陽がとても眩しかった。 感極まり、柄にも無く思わず泣き出しそうになる。 しばらくすると、太陽は遥か遠くの山々の先に、 惜しみなく姿を隠していってしまった。 太陽が姿を消し、薄暗くなった頃に風はピタリと止み、 動物達も穴倉に帰ったのか、一切の無音。 時が止まったように思えた。 稲村ヶ岳登頂を明日に備え、 今日は早めに就寝する事にした。 夕飯を済ませ、持ち込んだビールとワインで眠気を呼び寄せ、 疲れていた事もあり、寝袋の中に潜り込むと、気がつけば眠ってしまっていた。 真夜中にふと目が覚めた。 眠る前には穏やかだった天候は、 時間とともに豹変し、とても風が強くなっていた。 初めてのテント泊で(金剛山で特訓をしたにせよ)とてつもない不安に襲われた。 明日の天候の事をを考えると、 山頂を断念するか、あるいは帰り道が吹雪に見舞わられ、下山するのも困難になってしまうのではないか。 考え出すと悪い方へ考えが膨らみ出し、 眠ろうとするが風の音で目を覚ましてしまう。 気がつけば、テントの周りが少し明るく、 夜明けがすぐそこまで近づいていた。 就寝前より少し肌寒く感じたので、 暖をとるためにテント内で湯を沸かし、 コーヒーをすすった。 さらに明るくなった事を確認し、恐る恐る天幕から顔を出すと、 そこには朝日が顔を出そうという瞬間だった。 3月3日 快晴。 僕が天幕から飛び出すと同時に、 昨日隠れてしまった反対方向の山々の隙間から、太陽が顔を出した。 雲ひとつない空に昇っていく太陽の光を浴びながら、本日2杯目のコーヒーをすすった。 もちろん、稲村ヶ岳山頂を目指す事は言うまでもない。 軽く朝食を済ませ、登頂用の荷物と、 不要な荷物は天幕にしまい、出発する事にした。 そこからの道のりは行きの道と同様に、 確認できる足跡は小動物のそれと、凍った糞と小便の臭いのみだ。 高度感が増す中、低い植物の枝をかき分け、 鉄塔が見えてきた。 山頂にある展望台だろう。 山頂を目前にまず思ったのは、 いったい誰が、どうやってこの展望台を建てたのか、とても不思議に思えるほどの、立派な代物だった。 いよいよ、その山頂の展望台にまたがると、 そこには雲ひとつと無い濃紺の空が広がり、 「地球がその宇宙に浮いていた。」 濃紺の空は、僕の心を浄化し、 遥か遠くの宇宙に僕を連れ去っていった。 長文をお読みいただきありがとうございました。

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