活動データ
タイム
05:36
距離
8.9km
のぼり
787m
くだり
783m
活動詳細
すべて見る昨日ようやく仕事に一区切りがついたので、ちょっときつめの山を探していました。 ただ、午前中に福井(福井市)まで行く用事があったので、高さはそんなにない、楽しめる山を探すことにしました。 振り返ると今まで行った所全てが泰澄大師(たいちょうたいし)に関連、または伝説が残る名勝だったので、だんだんと気になる存在ということに気付き始めました(淡い恋心にも似た感覚)。 結果、福井市からも近く修験道として名を馳せた越知山に行くことに決めました。何やら泰澄大師が14の時に夢で「お前も僧になって世のため人のために尽くしなさい」というお告げを聞いたといい、それから毎夜越知山に足を運び修行をしたという。親御さんからすると夜な夜な外を出歩く不良少年バリの行いかのように思われますが、やがてこの修行で霊力を身につけ、のちに天皇の病を呪術で治し、更には疫病すら封じたという言い伝えを残すのです。 そんな7年もの長きに渡り修験者として通った「泰澄の道」を、悠久のロマンに思いを馳せながら越知山登山を始めました。 出発は旧小川分校跡で、今は糸生(いとう)地区の集会場の裏から上ります。その隣に専用駐車場があったのでそこに車を停めました。既に5台ほど停まっています。というか私の到着が正午なので遅いのは私です。 出発からかなりの坂道。前回刈込池で食べたチキンラーメンが思いのほか美味しかったので、今回は30Lのザックに食料と水を沢山詰めての登山になりました😅 これが失敗だと気づくにはさほど時間はかからず、2合目ですでに「帰りたい」と弱音を吐いてしまいました。しかし誰が見ているわけでもなく、誰とも比べることもなく、ただ自分と心の中の14歳の泰澄少年とともにゆっくり歩みを進めればいいと割り切り、それからは少し楽な登りになりました。杉林と竹林を交互に渡り歩き、鳥の声と軟らかい葉っぱの隙間からこぼれ落ちる太陽の光の中を歩きます。稜線に出ると木はまばらになり、鳥の声は風にかき消され、下から吹き上げる風に飛ばされそうな帽子を押さえつけながらまた木々の中に入り込みます。 標高を上げていくと次第に樹木は白い皮の背の高い、ブナの木々になってきました。日差しはさえぎられ静寂さに包まれます。道はアップダウンを繰り返し、すれ違う下山者の顔はみな下りというのに楽な顔をしていません。登り返しが所々あり体力を奪われているのでしょう。 少しなだらかな道を進むと、お地蔵さんが祀られている小屋に到着しました。ここから左に50mほど下ると独鈷水(とっこすい)と呼ばれる、水場があります。泰澄大師が杖で山肌を突くと水が湧き出てきたとういう言い伝えがある霊水だそうです。水温は年中9℃と変わらず、かれることなく流れ出ているのだそうです。そばに不動明王が置かれ、一礼して水を頂きます。山水には抵抗があるのですが、泰澄大師と一体になれる気がして、手に汲んだ水を口に含みます。何の臭みもない、かといって味もない、9℃は言い過ぎと思うが安心して飲める水でした。いったい今まで何人の修験者や登山者の喉を潤してきたのだろうか。または命を救ってきたのだろうか。水を一口飲んだだけで少し体力が回復したように感じました。 7合目付近はきつい登りもありますが8合目になるとなだらかな稜線を伝い、やがて白山開山1300年の登りが見えてきました。石段を登ると越知神社がありました。 そこから程なくして室堂(社務所)があり祈祷やおみくじができます。縁側には既に一人の登山者が腰を据えて、宮司さんとなにやら話し込んでいます。わたしはお参りをするため帽子を脱ぎ、お賽銭をウエストバッグから取り出します。その間、登山者はなにやらポスターのようなものを手にして下山していきました。私はお参りを済ませ、戸を閉め中に入っていった宮司さんを横目で見ながら縁側の前を通り過ぎようとすると、わざわざ声をかけてくださり、「行をしに来たのか、行とは何か分かるか、来た道で何かに出合わなかったか」と色々聞いてきます。出発が遅く、ペースも遅いため早く山頂を目指したいのですが、宮司さんの強い引きにはかなわず、しばらく話し込むことになりました。「この辺は熊が出るんですか」と聞いてみると「熊は聞かぬが、先日おろちと格闘したという者がおったわ」。この言葉をきっかけに、やはり先を急がないと夕暮れは直ぐにやってきそうだと思い、話も早々に切り上げようとすると、ポスターを手渡され、「あなたの勝山にも泰澄大師の関連の場所があるから持って行きなさい」と先ほどの人も手にしていたポスターを私も頂きました。また「行とは何か、これを読んで学びなさい」と数枚の用紙も頂きました。「隣で太鼓を18回叩いてお祈りをしなさい。そして背後にある二股に分かれたとちの木を触っていきなさい。力が出てくるぞ」と色々ご親切に話してくださいます。私は深々と頭を下げ、本当は長話にならないか冷や冷やしながら室堂を後にしました。 奥の院まで5分ほど進むとようやく越知山の山頂に到着しました。既に木々の葉っぱで見通しがきかないのですが晴れた日には白山が眺望できるのだそうです。ここでやっと泰澄大師が白山を目指したのかが理解できました。遙か彼方に見える、夏でも雪をたたえる白山は、麓の緑の木々で覆われた山々とは一線を画しています。誰が見てもその山容にはただならぬ霊気を感じ、憧れと神秘性を見いだしていたのでしょう。少し肌寒い中、珈琲を煎れ、待ちに待ったチキンラーメンを作り、夕べ、旦那さんが作ってくれた特製カレーを奥の院の軒先で頂きました。熱々のチキンラーメンをすすりますが、刈込池で食べたときとはあまり美味しく感じず、旦那さんの特製カレーが身に染みるように体の中を通っていくのがわかりました。すると遠くで雷の音が聞こえ、西の空が灰色の雲をたたえ暗くなってきました。私は早々に荷物をザックに入れ、足早に下山を開始しました。本当なら、越前5山スタンプラリーのことも宮司さんに聞いてみたかったのですが、林道で殿池のそばまで車で来れるみたいなので、時間に余裕があるときに車で来てスタンプを押し、宮司さんの話に付き合おう(耳を傾けよう)、そう思いました。 下山すると私の車しか残っていません。田んぼの水を見に来た地元のおじさんが口笛を吹いて私に自分の存在を知らせています。 車での帰り道、泰澄の杜に向かい車を走らせますが少し迷い、糸生小学校の前に来てしまいました。そこに1匹のキツネが川を見下ろしじっと見つめています。私は車を降りて近づこうとしますがこちらの存在に気づかず、ただ川を見ているだけです。私の口笛でようやく首をこちらに向け、腰を上げ、私の方に向かい寄ってきます。人慣れしているのでしょうか。あまり警戒する様子もなく、2mほど手前まで近づき、私をよけてゆっくり走り去っていきました。時折私の方を振り返り、何か言いたげな表情で茂みに消えていきました。どこか切ない表情がとても気になりました。車に乗り込み、ふと「もしかしてあのキツネ、泰澄大師の化身なのかな」と思いました。だとしたらいったい何を私に訴えていたのでしょうか。あのキツネは私を騙そうとしていたのか。キツネが見ていた先には流れる川の水しか見えていなかったけど、あのキツネはいったい何を見ていたのか、何かすっきりしないモヤモヤとした気持ちのまま、越知山登山を終えました。
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